UD授業入門④〜やりたきゃ勝手に参加する〜
前回はユニバーサルデザインにおける参加階層への支援を書いてきました。
しかし、いくら車を整備したところで、エンジンをかけなければ車は動きません。今回は、どの子もエンジンがかかりやすい参加のさせ方について「お笑い」を例に書いていきます。
授業とはお笑いである
いきなりですが、私の大学の研究室の先輩に細川さんというYouTuber(芸人?)がいます。その人の卒業研究がお笑いフレームで授業を面白くするみたいな内容でした。かなり衝撃的だったのを覚えています。「人はどんな時に笑うのか」を分析しそれをフレーム化して授業に組み込むというものです。当時大学2年生だった私は、「これのどこが研究なんだ…」と思いましたが(すいません)授業について学んでいく中で、あの研究はかなり価値の高いものだったのではないかと思うようになりました。
人はどんな時に笑うのか
人が「お笑い」を見て笑う時にはいくつかのパターンがあります。そのどれもに「緊張」と「弛緩」が組み込まれています。自分の予期していないことが起きると「緊張」し、自分の予期していることが起きると安心して「弛緩」が起きます。
例えば、「こちらでお召し上がりですか?」に対して「持って帰るよ」と答えが返ってきたら、次は「テイクアウトですね」という答えが返ってきそうなところを「ソルトレイクの方で…」とボケることで、「なんだよそれ」という不安から「緊張」が起きます。しかし、このままでは不安なままなので「テイクアウトだよ」と突っ込むことで、見ている人は安心して「弛緩」します。さらに「冬季オリンピックかよ」と一言入れることで、見ている方は「あ〜それそれ」と安心します。つまり、「笑い」は「緊張」と「弛緩」を適度に織り交ぜることで生まれるのです。「ズレの不安」と「納得の安心」と言い換えてもいいかもしれません。
それを授業に転化するとどうなるか
例えば、国語の授業で「音読をします」「主人公の気持ちがわかるところに線を引きましょう」「では主人公の気持ちを発表しましょう」という流れだったとしたら、お笑いでいう「緊張」がないのです。ずっと「弛緩」。これでは面白いとは思えませんし、せっかくやる気を出して話を聞いていた授業がこの流れでは、また床に寝転がってしまいます。
そこで、国語の授業UDにおいては「教材にしかけを作る国語授業10の方法」(桂聖)というものがあります。その中では、①順序を変える ②選択肢を作る ③置き換える ④隠す ⑤加える ⑥限定する ⑦分類する ⑧図解する ⑨配置する ⑩仮定する という10通りの方法で教材に緊張を加え、子供が参加したくなる授業にするということが提唱されています。
この10のしかけですが、並列の関係ではないと考えています。
まず、正誤判定型が
③置き換える ⑤加える ⑩仮定する
の3つです。
次に、並べ替え型が、
①順序を変える ⑨配置する
の2つです。
また、②選択肢を作る と ④隠す はそのまま選択型、穴埋め型とも呼べるでしょう。
⑥限定する ⑦分類する と ⑧図解する は少し毛色が違うので、思考の可視化型とでも名前をつけましょう。そうすると、国語授業に限らず、正誤判定型、並べ替え型、選択型、穴埋め型、思考の可視化型という風にまとめて行くと、他の教科にも転用できるようになっていくと思います。今回はこの順番で少しだけ解説をしていきます。
正誤判定型
これはどの教科でも取り組みやすい発問の型です。教師が「〇〇ですね」とあえて間違い(ぼけ)子供に「違うよ!だって〜」と直させたり議論させたりする(ツッコミ)時に使えます。あえて間違うことで、そこに授業の内容を焦点化できるのも利点です。やりすぎるとくどくなります。
③置き換える
ダウト読みなんかでよく用いられます。内容を確認したければ「白い」→「黒い」などのように変えます。表現の良さを話し合わせるには、「ゆみ子の泣き顔を見せたくなかったのでしょうか」→「ゆみ子の泣き顔を見せたくなかったのでしょう」のように文末などの表現を違ったものにします。確認読みのレベルでは非常に有効だと思います。
体育などでは、あえて間違えのお手本を見せて何が悪いか考えさせるのも良いです。NHKの「はりきり体育ノ助」なんかで用いられる手法ですね。理科の実験の確認や、算数の筆算の手順の確認など、確認レベルでは他教科でも有用です。
⑤加える
あえて違う文章を埋め込むことで、もともとの文章の構造に気づかせるための手法です。あえて違う挿絵を用意するという手法もあります。
これは私はあまり他の教科では使わないかなと思います。
⑩仮定する
こちらはいわゆる「もしも発問」というやつです。「この文がもしも〜だったらどう?」と問うことで、元の文の良さを確認するといった手法です。③の「置き換える」に近いですが、そっちが確認のクイズから「なぜそうなんだろう」と迫っていくのに対し、こちらの方が元の文の良さを議論し合うのに有用です。高橋達哉先生からこの項目だけで著書が出ています。
あまり関係ないですが、小学生はロールプレイングが好きなので、「もしも市長だったら」で考える社会とか「もしも体操教室の先生だったら」で体育のまとめ書かせたりすると面白いですよね。
並べ替え型
全然関係ないですが、選択肢のカードを黒板の前でぶちまけるという茶番をよくやります。子供は「先生またこぼしたの〜?」とノリノリです。子供はお約束が意外と好きなのです。これも、予測していたことが起きる「弛緩」からくる笑いです。
①順序を変える
この発問は文章構造の中で「順序」に焦点化させる時に有効です。例えば、はじめ中終わりや、事例提示の順番などに焦点化した授業を行う時に活用できます。
国語以外では、社会の「時間的な見方を働かせて考える」授業や、プログラミング的継時処理を判断させる時に使えます。
⑨配置する
この発問は、「空間的見方を働かせて考える」のに適しています。挿絵などがどこの場所に当てはまるのかを考えて配置して、なぜその場所か根拠を本文から探します。例えば、やまなし(宮沢賢治)の対比構造を理解するために、5月と12月のかにの世界をそれぞれ図解していくといったように使います。
他にも、文を配置することで対応する箇所を探すことにも使えます。
当然社会においては地理的な(空間的な)見方を働かせることができますし、理科でも地学系の学習には適しています。
選択型
②選択肢を作る
これは自分が最もよく使う中心発問で、いわゆるwhich型発問というものです。どっち?あるいは、どれ?を選ぶのは誰でもできます。さらに、その後の根拠をお互いに議論し合うので、とっつきやすく深まりやすいです。1対29みたいな少数派が最後に大逆転するようなこともあり、難しい課題設定でも食いついて議論してくれます。(持ち上げすぎ?)この項目だけで著書が出ていますので、よかったらどうぞ。
当然選択肢を作って選ばせるというのは、他教科にも応用できますし、職員会議でもA案とB案を持っていった方がまとまりやすいです。さらに、子供が自分たちで選択肢を作って話し合えるようになると、なおすごいですね。
穴埋め型
④隠す
これは、あえて隠すことで、他の情報を統合して隠れている部分を推察させることで、より本文を読み込むという効果が期待できます。まあ、簡単に言うと「焦らす」っていうことですね。
他教科でも、一旦立ち止まって考えさせたい時に使えます。社会の資料提示の時に一箇所だけ隠して配ったり、算数の文章題の条件を一箇所だけ隠して考えさせたり、汎用性が高い手法です。理科の実験では、ブラックボックスで演示実験したりすると盛り上がります。
田中博史先生がよくやるのですが、子供の意見を途中で止めて、「この続き、〇〇くんの言いたいことが分かった人?」というのも、子供の意見を「隠す」というテクニックですね。
思考の可視化型
ここからは、参加階層に対する食いつきのための手立てというよりは、わかりやすく整理して、議論を深めるための手立てなような気もします。
⑥限定する
先回の記事で、「刺激量を調整する」という項目がありましたが、⑥限定するはそれに近いです。一文だけ提示して、その文について考えたり、二つの文章だけに限定して提示し、比較させたりと、考えさせたい部分に焦点化させるのに有効です。
筑波附属の高倉先生が、音楽の鑑賞の授業で「最初の3秒だけ聞かせます」という「限定する」手法を用いた授業をしていました。鳥肌の立つ授業でした。
⑦分類する
浅い海と深い海を比較したり、ちょうと女の子を比較したり、戦時中と10年後を比較したりと、情報を整理して比較するのに適しています。
他教科だと思考ツールを使って様々な考え方をすることもできます。思考ツールといえば関西学院初等部ですね。
⑧図解する
図解するといえば沼田拓弥先生ですね。立体的に文章構造や関係性を捉えることができます。(内緒ですが、図解するの中にも10のバリエーションがあるらしいですよ。)
まとめ
長々と書きましたが、「やりたい」と思わせるには様々な手法があります。「参加」の土台にすら乗ってくれなければ、全員達成の授業にはなり得ません。やりたいと思わせるには、「ズレ」を作って「弛緩」から「緊張」にもっていきます。その方法を今回は国語を中心に10個簡単に紹介しました。これを頭に入れておくと、授業を考えるのがとても楽しくなります。だっていつも寝ているあの子がノリノリで少数派の意見を主張していたら、教師冥利につきますよね。
しかし、この手法だけではいわゆる「尻すぼみ」の授業になってしまいます。拡散しすぎてなんだかよくわからない授業、結局誘導みたいになってしまう授業、、、苦い思い出はたくさんあります笑 「ズレ」をつくってガツンと惹きつけ、全員を参加の土台に乗せて、これはまだスタートラインにすぎません。その後の授業づくりについてはまた今度…。